自分ばかり責めないで、肩の力を抜いて…あなたは1人じゃない

看護師が辞めたくなる日、それでも続ける人がいる理由——3つのニュースから見えた“現場のリアル”

病院や介護施設で、私たちの命や生活を一番近くで支えてくれる看護師。しかし今、その現場では大きな変化が起きています。

2026年4月、看護の現状を映し出す3つのニュースが報じられました。看護職の「働き続けたい」という意向が低下しているという調査結果、81歳で引退を迎えたベテラン看護師の姿、そして地域医療を支えるために看護科へ入学した外国人留学生たちのニュースです。

これらは別々の出来事のようですが、根底では「これからの医療や介護を誰がどう支えていくのか」という一つのテーマでつながっています。数字や美談だけで終わらせず、現場で何が起きているのか、3つのニュースから見えてくるリアルを紐解いていきます。

処遇の改善 (働き続ける) 経験の継承 (ベテランから) 人材の育成 (多様な働き手) 看護現場の未来をつくる3つの柱 根性論から「誰もが続けられる構造」への転換
目次

「働き続けたい」が6割台まで低下した——それは“気合い不足”ではない

日本看護協会が2026年3月末に公表した「看護職員実態調査」は、医療現場に静かな衝撃を与えました。今後も看護職として働き続けたいかという問いに、「とてもそう思う」「ややそう思う」と答えた割合が62.9%にとどまったのです。前回の2021年調査(67.6%)からの低下に対し、看護協会も「現場離れの懸念が高まっている」と危機感を示しています。この数字の背景には、個人の「やる気」や「気合い」の問題では片付けられない、根深い課題が隠れています。

賃金、休み、人間関係……看護師が求めているのは特別なことではない

看護師が今の仕事を続けるために重要視している要素は何でしょうか。調査で最も多かったのは「業務や役割、責任に見合った賃金額」でした。それに続いて、「休みがとりやすい」「職場の人間関係が良い」「希望する働き方ができる」といった理由が並びます。

人の命を預かり、夜勤や不規則なシフトをこなし、常に緊張感と隣り合わせの環境に身を置く看護職。その重責に対して、給与が十分に見合っていないと感じている人が多いことがわかります。また、有給休暇の消化や、ライフステージに合わせた働き方の選択といった、働く人として当然守られるべき権利が、医療現場ではまだ「希望」の段階にとどまっている現状が浮き彫りになっています。彼らが求めているのは決して贅沢ではなく、ごく当たり前の労働環境なのです。

暴言・暴力・ハラスメントが日常にある職場で、誰が安心して働けるのか

もう一つ、この調査で見過ごしてはならないのがハラスメントの実態です。過去1年間に職場で暴力や暴言、ハラスメントなどを受けた経験がある看護職は、なんと49.3%に上りました。約半数の看護師が、日々の業務の中で何らかの被害に遭っていることになります。

さらに深刻なのは、その加害者の約7割(69.3%)が「患者・利用者」であるという事実です。病気やケガによる不安、認知機能の低下など、患者側にもさまざまな背景があるとはいえ、現場の看護師たちは「ケアをする相手」からの暴力や暴言に耐えながら働いています。これに加えて、上司や医師、患者の家族からのハラスメントも報告されています。安全であるべき医療の現場が、働く側にとって精神的・肉体的な危険と隣り合わせになっている現状は、一刻も早く改善されなければなりません。

“辞めたい人が増えた”ではなく、“続けにくさが放置されてきた”という話

「働き続けたい」という意向が6割に落ち込んだことを、「最近の看護師は忍耐力がない」といった個人的な問題にすり替えてはいけません。これは、長年にわたって「やりがい」や「使命感」に依存し、過酷な労働環境やハラスメントへの対策を後回しにしてきた結果と言えます。

看護師たちは、突然辞めたくなったわけではありません。本来ならずっと続けたいはずの仕事が、賃金や待遇、そして身の安全という根本的な部分で「続けにくく」なっており、その構造的な問題が放置されてきた結果が、今の数字に表れているのです。


81歳まで働いた看護師の引退に、なぜこんなにも心を打たれるのか

厳しい現実がある一方で、生涯を看護に捧げた人のニュースも私たちの心を打ちます。宮崎県の通所リハビリ施設で働く日高愛子さんが、81歳で看護師としての最後の日を迎えました。65年という途方もない時間を医療と介護の現場で過ごし、「マザーテレサみたい」と周囲から慕われた彼女の引退は、単なる一人の退職以上の意味を持っています。

長く働ける人がすごい、だけでは済ませたくない

65年間、現役の看護師として働き続けた日高さんの姿は、間違いなく尊く、尊敬に値します。常にハツラツと施設内を動き回り、利用者に寄り添い続けたエネルギーには驚かされるばかりです。

しかし、この記事を「これだけ長く頑張れる素晴らしい人がいるのだから、今の若い人も頑張るべきだ」という美談や根性論として消費してはいけません。彼女がこれほど長く現場に立てたのは、ご本人の並外れた努力と情熱があったからこそです。これからの医療現場を考える上で私たちが目を向けるべきは、「どうすれば誰もが心身をすり減らさず、健康に長く働き続けられる環境を作れるか」という点です。

利用者に名前で呼ばれる看護は、マニュアルだけでは育たない

引退の最終日、日高さんは利用者から「愛ちゃん」「愛子ちゃん」と親しみを込めて呼ばれ、別れを惜しまれていました。利用者が涙を流して「今までありがとうな」と伝える姿からは、単に医療的な処置を施すだけではない、人と人としての深いつながりが見て取れます。

このような信頼関係は、一朝一夕に築けるものではありません。毎日の何気ない会話、表情の変化を読み取る観察眼、そして相手の不安に寄り添う姿勢。こうした現場の泥臭い積み重ねの中で育まれる看護の力は、教科書やマニュアルを読んだだけで身につくものではなく、長い時間をかけた経験の産物です。

ベテラン看護師の引退は、一人の退職ではなく“現場の財産”が去ることでもある

81歳のベテラン看護師が現場を去るということは、単にスタッフの数が「マイナス1」になるということではありません。彼女が65年かけて培ってきた「言葉にならない技術」や「患者を安心させる空気づくり」といった、現場の貴重な財産が一つ失われることを意味します。

高齢化が進む日本において、医療や福祉の現場で働く高齢の就業者は年々増加しています。彼らの豊かな経験に現場が支えられている側面は大きいですが、いつかは必ず引退の時期がやってきます。だからこそ、ベテランが持つ暗黙知やケアの精神を、次の世代へどう継承していくのかが、現場に残された大きな課題となっているのです。

外国人が看護科へ入学——人手不足の切り札、で終わらせてはいけない

看護師不足に対する一つの答えとして、海外からの人材に期待が寄せられています。福岡県大牟田市の看護専門学校に、インドネシアとミャンマー出身の5人が入学したというニュースもその一つです。彼女たちはすでに准看護師の資格を取得しており、今後は病院で働きながら正看護師の国家試験合格を目指します。しかし、この話題を単なる「人手不足の穴埋め」として片付けてしまうと、現場が抱える本当の課題を見落とすことになります。

「来てもらう」ではなく「育つ仕組みをつくる」が本当のスタート

外国人材を医療現場に迎える際、最も陥りやすい落とし穴が「採用すれば何とかなる」という勘違いです。福岡県医師会の取り組みが注目されるのは、単に人を連れてくるだけでなく、日本語教育から資格取得、そして就労までを一貫して支援する「育つ仕組み」を作っている点にあります。

医療の仕事は、命に関わる厳格な知識と技術が求められます。異国の地で働きながら専門用語を学び、国家試験に挑むというのは並大抵の努力ではありません。彼女たちが「知識を持った看護師になりたい」という夢を実現するためには、受け入れる側の長期的で丁寧なサポート体制が不可欠です。

言葉の壁より難しい、文化・責任・現場感覚のすり合わせ

外国人看護学生が現場に入る際、最初に直面するのは「言葉の壁」だと思われがちです。確かに医療用語や独特の略語を覚えるのは大変ですが、それ以上に難しいのが「文化や現場感覚のすり合わせ」です。

日本の医療現場には、「空気を読む」「患者さんのちょっとした表情の変化から察する」といった、言葉にされないコミュニケーションが多く存在します。また、看護師の役割や責任の範囲も国によって異なります。これらを一つずつ紐解き、日本式のチーム医療の中でどう連携していくかを教えることは、語学の指導以上に根気のいる作業です。

外国人看護人材の受け入れは、現場の余裕と教育力を問うテーマでもある

ここで最初のニュースを思い出してみてください。今の看護現場は「約6割の人が働き続けたい意向を下げている」ほど、心身ともに余裕のない状態です。

新しい人材を育て、異文化を理解し、コミュニケーションのすり合わせを行うためには、教える側の看護師に「時間と心のゆとり」が必要です。現場が疲弊しきっている状態では、せっかく意欲を持って海を渡ってきた外国人材を孤立させてしまう恐れがあります。新しい人を迎えることは、受け入れる組織の教育力と、それを支える労働環境そのものが問われるテーマなのです。


3つのニュースに共通していたのは、“看護は人でできている”という当たり前

「離職意向の増加」「ベテランの引退」「外国人留学生の入学」。一見バラバラに見えるこれらの出来事ですが、根底に流れているメッセージは同じです。それは、どんなに医療機器やシステムが進化しても、「看護の土台は、血の通った“人”である」という当たり前の事実です。

辞めたくなる人を責める前に、続けられる環境をつくれているか

看護師が現場を離れたくなるのは、使命感を失ったからではありません。本来なら手を差し伸べたい患者さんがいるのに、賃金が見合わない、休みが取れない、ハラスメントに心を削られるといった「環境の不備」によって、続けることが難しくなっているのです。人を責めるのではなく、この構造そのものを変えていく視点が求められています。

長く働いた人を美談にする前に、その経験をどう残すか

81歳まで現場を支え続けた看護師の存在は、まさに現場の宝です。しかし、個人の並外れた献身に依存し続けることはできません。彼女たちが何十年もかけて培ってきた「患者さんを安心させる力」を属人的なものとして終わらせず、次の世代へどう言葉にして伝えていくか。継承の仕組みづくりは、残された私たちの使命です。

新しく入る人を歓迎するなら、孤立させない仕組みまで整えたい

そして、新しく看護の世界に飛び込んでくれる多様な人材。彼らが希望を持って働き続けるためには、「あなたが来てくれて助かった」という歓迎の言葉だけでなく、現場で孤立させないための具体的な教育体制と、教える側の負担を減らすサポートが必要です。


看護の未来に必要なのは、根性論ではなく「続けられる設計」

これまで日本の医療現場は、医療従事者の「自己犠牲」と「強い責任感」によってギリギリのところで持ちこたえてきました。しかし、もはやそのやり方では限界が来ていることが、さまざまなデータや現場の声から明らかになっています。今必要なのは、気合いや根性ではなく、誰もが働き続けられる合理的な「設計」です。

処遇改善は“贅沢”ではなく、安全な医療の土台

看護師の給与アップや休日の確保を「待遇のわがまま」と捉えるのは大きな間違いです。疲労が蓄積し、精神的な余裕がない状態では、重大な医療ミスを引き起こすリスクが高まります。適正な賃金が支払われ、しっかりと休息が取れる環境を整えることは、働く人を守るだけでなく、結果として患者の命と安全を守る「医療の土台」そのものなのです。

教育、継承、多様な人材受け入れは別々ではなく一つの課題

ベテランから若手への技術継承、新人教育、外国人材の受け入れ。これらは別々の問題として扱われがちですが、実はすべて連動しています。教える側である中堅看護師が定着してこそ、ベテランの知恵は引き継がれ、新しい人材を育てる余裕も生まれます。どれか一つだけを解決しようとしても、歯車はうまく回りません。

現場を守るとは、働く人を守ることから始まる

私たち一般の患者や家族は、病院に行けばいつでも質の高いケアが受けられることを「当たり前」だと思いがちです。しかし、その当たり前は、現場で働く人たちの身を削るような努力の上に成り立っています。質の高い医療を維持し、現場を守るための第一歩は、そこで働く看護師たちの心と体を守ることから始まるのです。


まとめ——看護師が減る社会にするのか、育ち続ける現場にするのか

3つのニュースから見えてきたのは、転換期を迎えている看護現場のリアルな姿でした。課題は山積みですが、決して絶望的な話ばかりではありません。

ニュースの概要表面的な課題・現象現場に潜む根本的な課題と必要な対策
「働き続けたい」意向が6割に低下
(日本看護協会 調査)
「辞めたい」と思う看護師が増えている。【労働環境の構造的欠陥】
個人の気合い不足ではなく、見合わない賃金やハラスメントの放置が原因。安全な医療の土台として処遇改善が急務。
81歳現役看護師の引退
(宮崎県・けいめい記念病院)
高齢スタッフの退職により、貴重な人手が減る。【経験や技術の継承不足】
個人の並外れた献身や暗黙知に依存してきた限界。マニュアル化できない「患者を安心させる力」を次世代へつなぐ仕組みが必要。
外国人留学生が看護科へ入学
(福岡県医師会 養成事業)
日本人だけでは人手が足りず、労働力を外部に頼る。【受け入れ・教育体制の不足】
ただ人を集めるだけでなく、文化の違いをすり合わせ、孤立させない教育体制が必要。そのためには教える側(現場)の余裕が不可欠。

今起きているのは、個人の問題ではなく構造の問題

繰り返しますが、現在の看護師不足や離職の増加は、個人の能力ややる気の問題ではありません。社会の変化に合わせて、働き方や評価の仕組みをアップデートできていない「構造」の問題です。原因が構造にあるのなら、社会全体で制度や環境を見直すことで、必ず変えていくことができます。

それでも現場には、つなごうとしている人たちがいる

疲弊する現場の裏側には、65年ものあいだ患者に寄り添い続けた先輩がいて、遠く海外から日本の医療を支えようと学び始める若者たちがいます。そして、待遇改善やハラスメント防止に向けて、声を上げ始めた組織もあります。医療のバトンを途絶えさせまいと、懸命につなごうとしている人たちが確かに存在しているのです。

看護師が“続けたい”と思える職場こそ、患者にとっても安心な場所になる

私たちが目指すべき未来は明確です。それは、看護師自身が「ここでずっと働き続けたい」と心から思える現場を作ること。

スタッフが笑顔で、心に余裕を持って働ける病院や施設は、そこに通う患者や家族にとっても、最も温かく安心できる場所になるはずです。看護師の労働環境を考えることは、私たち自身の未来の命と暮らしをどう守るかを考えることと同じなのです。

参考一覧

■ 看護職の労働環境・ハラスメントに関する資料

■ 高齢者の就業・ベテラン看護師に関する資料

■ 外国人看護人材の受け入れに関する資料

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