「セブンの時給約1,200円、大阪万博約1,850円、キャバクラ約3,000円。……なのに、患者の命を支えて夜勤もこなす看護師の時給が1,300円って、安すぎない?」
SNSで定期的に大激論が巻き起こる、この「エッセンシャルワーカーの待遇問題」。あなたもタイムラインで見かけたことがあるかもしれません。
「本当にその通り!やりがい搾取だ!」と現場の悲痛な声に共感するコメントがあふれる一方で、「いやいや、給料は責任の重さじゃなくて、市場の需要と供給で決まるんだよ」「嫌なら辞めて別の仕事をすればいい」といったシビアな意見も飛び交い、いつも議論は平行線をたどります。
たしかに、人の命を預かり、精神的にも肉体的にも限界まで削られる過酷な仕事が「コンビニのアルバイトとほぼ同じ時給」だと言われたら、理不尽に感じるのも無理はありません。これから医療の世界を目指す高校生なら、「せっかく頑張って国家資格を取るのに、そんなに安いの?」と不安になってしまいますよね。
でも、この「時給1,300円」、実はデータの見方によって“ウソ”にも“ホント”にもなる、非常に絶妙な数字なんです。
この記事では、感情論になりがちなこのテーマを、厚生労働省の公式データや医療業界の裏側の仕組みから冷静に紐解いていきます。「なぜ命を救う仕事の給料がポーンと上がらないのか?」「そもそも時給だけで比べてはいけない理由とは?」——その裏側にある、日本の社会構造のリアルを一緒に見ていきましょう。

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Xで燃えた「看護師の時給1300円」──その違和感、数字でほどく

SNSで大激論になったこの話題。なぜここまで多くの人の心をざわつかせたのでしょうか?そこには、私たちが「命を救う仕事」に対して抱くイメージと、現実の数字との間に大きなズレがあるからです。
投稿が刺さった理由は「国家資格×命×夜勤」の圧倒的ギャップ
高校生のみなさんでも想像がつくはずです。病院で働く看護師さんは、ミスが許されない極限のプレッシャーの中、患者さんの命を預かっています。さらに、夜通し起きている「夜勤」もこなし、心身ともにヘトヘト。
それなのに、ふと求人票を見たときの「時給1,300円」という文字。 「あれだけ過酷なのに、近所のコンビニのバイトと変わらないの?」という直感的な違和感と怒りが、多くの人の共感を呼び、一気に拡散された(バズった)最大の理由です。
「安すぎる!」と「いや、平均は高いよ?」が同時に成立するワケ
ところが、この投稿に対して「いやいや、看護師の給料はもっと高いよ」「平均年収を見れば悪くないはず」というツッコミも多く寄せられました。
実は、どちらの言い分も「ある意味では正解」なのです。なぜそんな矛盾が起きるのでしょうか?そのカラクリを解くカギは、「時給」という言葉の定義にあります。
まず結論——“時給”は定義の切り取り方で別物になる

ズバリ結論から言うと、「どんな働き方をしているか」「給料のどの部分を切り取って計算しているか」で、看護師の時給は全く違う姿を見せます。マジックのタネ明かしをしていきましょう。
では「時給1300円」はどこから出てきた数字なのか?
決してウソの数字ではありません。実際に求人サイトを見ると、時給1,300円台の募集は存在します。では、それはどんな条件なのでしょうか。
夜勤なし・地方・小規模クリニックだと低く見えやすい
一番多いパターンがこれです。例えば、地方の小さなクリニックで、平日の昼間だけ働く(夜勤なし・残業なし)パートタイムの求人。都心の大病院でバリバリ夜勤をこなす働き方と比べると、地域ごとの最低賃金の違いや、手当の少なさがダイレクトに反映されるため、どうしても「時給」の数字はおとなしくなります。
「基本給だけ」で割り算すると、総収入のリアルから遠ざかる

もう一つの罠が「計算方法」です。常勤(正社員)の看護師さんの給料は、「基本給」に加えて「夜勤手当」や「資格手当」、そして「ボーナス(賞与)」が合わさってできています。
もし、手当やボーナスをすべて省き、「基本給だけ」を労働時間で割って時給換算してしまったらどうなるでしょう? 当然、本来もらっているはずの総額からガクッと下がった、とても低い数字が出てしまいます。「時給換算したら最悪だった…」という現場の嘆きは、この計算によるケースも少なくありません。
国の平均データで見ると、実はしっかり稼げる職業?
では、極端な例を省いて「国全体の平均」を見てみましょう。厚生労働省の公式データを開くと、SNSの印象とは少し違う景色が見えてきます。
平均年収ベースで見ると、全職業の「中〜上位」にランクイン

厚労省の「賃金構造基本統計調査」によると、看護師の平均年収は約520万円。日本の全職種の平均年収と比べても、実は平均水準を上回っており、「安定してしっかり稼げる職業」のグループに入ります。
非常勤(パート・アルバイト)の時給相場は「1,800〜1,900円台」
さらに、パートやアルバイトといった短時間労働者のデータを見ても、看護師の全国平均時給は約1,900円台。決して1,300円が“全国の普通”というわけではありません。
つまり、Xで燃え上がった「時給1,300円」は、日本のどこかにある「リアルな底値(または特定条件の切り取り)」であり、「看護師全体の平均値」ではない、というのが正しい見方なのです。
「国家資格なのに安い」論点をズラさず整理する
「あんなに分厚い教科書を暗記して、過酷な実習を乗り越えて取った国家資格なのに、なんでこんなに給料が安いの?」 これから医療を目指す高校生なら、当然抱く疑問ですよね。SNSでも「国家資格の持ち腐れ」といった声がよく上がります。しかし、このモヤモヤを解くには、そもそも「国家資格とは何のためにあるのか」を冷静に見つめ直す必要があります。
国家資格=高給、とは限らない(資格の役割を言語化)

私たちはつい「難しい資格=たくさん稼げるパスポート」だと思い込んでしまいがちですが、実は法律上、国家資格に「高給を保証する」という役割は一切ありません。
国家資格は「独占業務」「安全性担保」「参入管理」のため
看護師という国家資格の最大の目的は、「患者さんの命と安全を守ること」です。 医療行為という一歩間違えれば命に関わる危険な作業を、国がお墨付きを与えたプロフェッショナルだけに許す(独占業務)。そして、知識や技術がない人が勝手に医療現場に入ってこないようにブロックする(参入管理)。資格とは、社会の安全を担保するための「関所」のようなものなのです。
賃金は“価値”だけでなく“価格の決まり方”に左右される
「人の命を救う価値は無限大なんだから、給料も高くて当然!」という感情は痛いほどわかります。しかし、残酷なことに資本主義社会において、労働の「尊い価値」と「賃金(価格)」は必ずしもイコールにはなりません。賃金は、後述するような業界特有の「お金の決まり方」に大きく左右されてしまうからです。
合格率で難易度を語るのが危うい理由
SNSの議論でよく見かけるのが、「看護師の国家試験は合格率が約90%もあるんだから、誰でも受かる簡単な資格でしょ。だから時給が安くても妥当」という冷ややかな意見です。しかし、この数字だけを切り取るのは非常に危険です。
医療系国家試験は「受かる人が受ける」構造になりやすい
合格率90%という数字の裏には、巨大な「見えないフィルター」が存在します。 看護師の国家試験は、誰でも明日ふらっと受けに行けるものではありません。看護学校や大学で何年も専門知識を叩き込まれ、睡眠時間を削って過酷な病院実習を乗り越え、学校内の厳しい試験をクリアした人だけが、ようやく「受験する権利」をもらえます。つまり、途中で挫折しそうな人はすでに振るい落とされており、「ほぼ確実に受かるレベルまで鍛え上げられた集団」だけが受験しているから、結果的に合格率が90%と高くなるのです。
合格率と難易度を分けると議論が噛み合う
「合格率が高いから簡単な仕事だ」という表面的な批判は、現場の看護師さんたちの血のにじむような努力を無視しています。「合格率(テストに通る確率)」と「資格を取得するまでの難易度(過酷さ)」を切り分けて考えることで、初めて「なぜこれほど頑張ったのに報われないと感じるのか」という本質的な議論がスタートできます。
看護師の給料が上がりにくい“構造”——現場の努力では限界がある
「じゃあ、もっと病院が儲けて、看護師さんにたくさん給料を払えばいいじゃないか!」と思うかもしれません。しかし、医療の世界には、一般の会社とは違う「特殊なルール」が存在します。
医療は「保険×診療報酬」で収入が決まりやすい

私たちが病院に行って払うお金は、窓口での自己負担(例えば3割)と、健康保険からの支払いで成り立っていますよね。この「どの治療をしたら、いくらもらえるか」という価格表は、すべて国が定めた**「診療報酬(しんりょうほうしゅう)」**というルールでガッチリ決められています。
市場原理で時給が跳ねにくい仕組み
例えば、人気のラーメン屋なら「うちのラーメンは最高に美味しいから、明日から一杯1,000円を1,500円に値上げしよう!」と自由に決めて、利益をスタッフの給料に還元できます。 しかし、病院はそれができません。「うちの看護師は超優秀で優しいから、今日の風邪の診察代は1万円ね!」とは言えないのです。国が価格の上限を決めているため、病院の売上には自動的にフタがされ、結果としてスタッフの給料も劇的には上がりにくいという構造的なジレンマを抱えています。
「ベースアップ評価料」など賃上げ政策は何を狙っている?
もちろん、国も「このままではエッセンシャルワーカーが疲弊してしまう」と危機感を持っています。そこで最近、診療報酬の仕組みの中に「ベースアップ評価料」という新しいルールを作りました。これは簡単に言うと、「看護師さんたちの給料を上げるために使ってね」という目的で、国が病院に少し多めにお金を払うシステムです。
政策があっても現場に届くまでに“タイムラグ”がある
しかし、SNSの嘆きが消えないのはなぜでしょう? それは、国が制度を作っても、病院側がその複雑なルールを理解して申請し、実際にスタッフの基本給に上乗せして給与明細に反映されるまでには、どうしても時間がかかってしまうからです。「ニュースで『給料が上がる』と言っていたのに、私の手取りは全然変わらない!」という現場の苛立ちは、このタイムラグからも生まれています。
不足なのに上がらない? 需給データの読み方
経済の基本ルールでは、「人が足りない(需要が高い)のに、なり手が少ない(供給が低い)」状態になれば、人を集めるために給料(価格)は上がるはずです。看護師の有効求人倍率は常に高く、社会中が「看護師不足だ!」と叫んでいます。
求人倍率が高くても、単価が一律に上がるとは限らない
それなのに給料が爆発的に上がらないのは、先ほど説明した「診療報酬のフタ」があるからです。病院側も「もっと時給を上げて良い人を採用したい!」と喉から手が出るほど思っていますが、無い袖は振れません。そのため、給料を大幅に上げるのではなく、「院内保育所を作ります」「お休みを増やします」といった、お金以外の条件でなんとか人を集めようと四苦八苦しているのが、今の医療業界のリアルなのです。
「セブン」「万博」「キャバクラ」と比べていい?——比較の落とし穴と“使い方”
SNSの投稿で最も目を引いたのが、他の職業との「時給比較」でしたよね。たしかに数字だけ並べると「なんでこんなに違うの!?」と驚いてしまいます。しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。仕事の仕組みも、働く期間も、お給料のもらい方も全く違う職業を、単純に「時給」という一つの数字だけで比べてしまうのは、実はとても危険な落とし穴なんです。
同じ“時給”でも中身が違う(賞与・手当・福利厚生・責任)
お給料を考えるとき、「1時間あたりいくらもらえるか」はもちろん大切ですが、それ以外にも見落としてはいけない「隠れたお金と安心」があります。
看護師:夜勤手当・賞与・退職金の有無で総額が変わる
常勤(正社員)の看護師さんの場合、毎月のお給料に加えて「ボーナス(賞与)」が年に数回出たり、将来もらえる「退職金」の積み立てがあったりします。さらに、健康保険や厚生年金などの「社会保険(会社が半分負担してくれる手厚い保険)」にも守られています。これらをすべてひっくるめた「生涯の総収入」や「安定感」で見ると、単なる時給以上の価値が含まれているのです。
接客・イベント:繁忙期プレミアや短期集中で上がる
一方で、アルバイトや期間限定の仕事は、ボーナスや退職金がないケースがほとんどです。その代わり、「今すぐ人が欲しい!」「この期間だけガッツリ働いてほしい!」という企業側の事情があるため、パッと見の時給を高く設定して人を集めます。つまり、時給が高いことにはそれなりの理由があるわけです。
万博時給1,850円が象徴する「短期×採用競争×話題性」

例えば、大阪・関西万博の「時給1,850円」。これは破格の待遇としてニュースにもなりましたが、万博は「半年間」という期間限定のイベントです。終わってしまえばその仕事はなくなります。一生の仕事にはできない「短期的な不安定さ」があるからこそ、高いプレミアム(おまけ)が上乗せされていると考えるのが自然です。
キャバクラ時給3,000円が成立する「リスクと報酬の設計」

キャバクラなどの夜の接客業の時給が高いのは、ビジネスモデル(お客さんが払う金額がそもそも高い)の違いが一番の理由です。ただ、それだけではありません。お酒を飲みながらの高度なコミュニケーション能力(感情労働)が求められ、収入が不安定になりやすく、長く働き続けるのが難しいという側面もあります。まさに「ハイリスク・ハイリターン」な報酬設計になっているのです。
セブン時給1,200円の現実——地域差と最低賃金改定の影響
そしてコンビニの時給。最近は最低賃金がどんどん上がっているため、都市部では1,200円を超えることも珍しくありません。また、コンビニの仕事は今や「レジ打ち」だけではなく、公共料金の支払い、宅配便の受付、複雑なマシンの操作など、覚えることが山のようにある「激務」です。決して「楽だから安い、大変だから高い」という単純な話ではなく、深刻な人手不足の中で少しでも人を呼ぶためのギリギリの数字が「約1,200円」なのです。
現場の本音が言いにくいポイント——「低い」と感じるのはどこか

データ上は「平均より高め」で、他の職業と単純比較できないこともわかった。……それでもやっぱり、現場の看護師さんたちが「安すぎる!」と声を上げるのには、数字には表れない深刻な理由があります。
「命を預かる重さ」が時給に反映されていない感覚
最も大きな理由は、背負っているプレッシャーの異常な重さです。コンビニで商品の発注を間違えても命は落としませんが、病院で薬の量を一桁間違えれば、患者さんの命を奪ってしまう可能性があります。
インシデントリスクと心理的負荷は数字にしにくい
こうした医療ミス(インシデント)を起こさないための極度の緊張感や、病気で苦しむ患者さん・ご家族の不安を受け止める精神的なすり減り(心理的負荷)は、どれだけ重くても「基本給」にはプラスされません。「こんなに毎日、魂を削って働いているのに、この金額なの?」というやりきれなさが、「安すぎる」という言葉に変換されているのです。
夜勤が「高い」のに「しんどい」が勝つ理由

看護師の給料を押し上げている大きな要因が「夜勤手当」ですが、これがまた曲者(くせもの)です。
体内リズム崩壊コストは手当で相殺しきれない
人間は本来、夜に寝て朝に起きる生き物です。夜勤は、その自然な体内時計を無理やり逆回転させるため、想像以上に体にダメージを与えます。夜勤を1回やると数千円〜1万円程度の手当がつきますが、慢性的な寝不足や疲労感、肌荒れ、自律神経の乱れといった「健康を削るコスト」を考えると、「たったこれだけの手当じゃ、寿命を削っている割に合わない!」と感じてしまうのは当然のことです。
地域・診療科・病院規模で“別世界”になる
最後に、一口に「看護師」と言っても、働いている環境によって負担と給料のバランスが全く違うという現実があります。
都市部と地方、急性期と慢性期、病院と施設で差が出る
一分一秒を争う大都市の救急病院(急性期)で、毎日残業しながら夜勤をこなす看護師さんと、地方のゆったりした介護施設で日勤だけをする看護師さん。仕事のハードさは天と地ほど違いますが、実は「時給換算」すると、必ずしも激務な病院のほうがズバ抜けて高いわけではありません。この「頑張りと報酬が比例しない不公平感」が、SNSでの議論をより複雑に、そして感情的なものにしているのです。
じゃあ、どうすれば上がる?——「現実的な改善ルート」を分解する

ここまで、「なぜ看護師の給料は仕事の過酷さに見合っていないと感じやすいのか」を、構造や比較の罠から見てきました。では、この状況にただ絶望するしかないのでしょうか? 決してそんなことはありません。給料を「現実的に上げるためのルート」は、大きく分けて**「個人」「組織(病院)」「制度(国)」の3つのレベル**で考えることができます。
個人でできる:職場選びで“総額”を上げる視点
これから看護師を目指す高校生や、今の給料に悩んでいる若手看護師が一番にできる自衛策は、「賢い働き方・職場選び」の視点を持つことです。
基本給より「総支給」「夜勤回数」「賞与」「手当設計」を見る
求人票の「基本給」や「時給」という数字だけで判断するのはNGです。重要なのは、最終的に銀行口座に振り込まれる**「総支給額(年収)」**。 「夜勤1回あたりの手当はいくらか?」「ボーナスは何ヶ月分出るか?」「住宅手当や家族手当は充実しているか?」——これらの組み合わせで、同じような規模の病院でも年収に数十万円、時には100万円以上の差が出ることがあります。自分のライフスタイルと、もらえるお金の総額のバランスを見極める力が求められます。
同じ病棟でも役割(リーダー・認定・特定行為)で差が出る
ただ何となく年月を重ねるのではなく、専門性を磨くことでお給料のベースを上げることも可能です。特定の分野のエキスパートである「認定看護師」や「専門看護師」、あるいは医師の指示を待たずに一定の医療行為ができる「特定行為研修」を修了することで、病院側から特別な手当(資格手当)がつくケースが増えています。「代わりが効かない人材」になることが、市場価値を高める一番の近道です。
組織でできる:離職コストを減らして賃上げ余力を作る

次に、病院などの「組織」ができることです。病院も「もっと給料を払ってあげたいけれど、お金がない」というのが本音ですが、工夫次第で原資(元手)を作ることはできます。
人員配置・業務改善・タスクシフトが鍵
実は、看護師が1人辞めて新しく採用するのには、紹介会社への手数料などで数百万円のコストがかかると言われています。つまり、「働きやすい環境を作って、辞める人を減らす」だけで、病院には大きなお金が残るのです。 最新のITシステムを入れて記録の手間を減らしたり、看護補助者(看護助手)の方に専門外の仕事を任せたりする「タスクシフト」を進めることで、看護師の残業を減らし、浮いたコストを給料に還元していく。これが「良い病院」の条件になりつつあります。
制度でしか動かない:診療報酬・財源・配分の議論
最後に、国全体で変えていかなければならない最大の壁です。個人の努力や病院の工夫だけでは、どうしても限界があります。
「上げる」だけでなく「届く」仕組みが要る
前述した「ベースアップ評価料」のように、国も少しずつ医療現場にお金を回そうとしています。しかし、今の制度のままでは「病院の赤字穴埋めに使われてしまい、現場の看護師の給料にまでしっかり届かない」という課題も残っています。 単に「医療費の予算を増やす」だけでなく、「確実に現場のエッセンシャルワーカーのポケットにお金が届く仕組み(配分の最適化)」をセットで作ることが、政治に求められる最も重要な役割です。
まとめ——「1300円」は嘘じゃない。でも“看護師の全体像”でもない

今回のX(旧Twitter)での大激論を通して、見えてきた結論をまとめます。
平均データの明るさ/現場の暗さ、両方を同時に語るのが誠実
「時給1,300円」という数字は、地方やパートなどの条件が重なれば実際に存在するリアルです。しかし、それを「看護師という職業全体の平均」だと思い込むのは間違っています。データ上の平均年収は全職種の中でも決して低くありません。 それでも現場から悲鳴が上がるのは、「数字には表れない、命を預かるプレッシャーや夜勤による心身の削られ方(現場の暗さ)」が、お給料という形で十分に報われていないという強烈な不公平感があるからです。データだけで「恵まれている」と切り捨てるのも、感情だけで「ブラックだ」と決めつけるのも、どちらも誠実な議論とは言えません。
議論のゴールは“誰が悪いか”より「どう改善するか」
SNSでは「やりがい搾取をする国が悪い」「いや、文句を言う本人の努力不足だ」といった犯人探しになりがちです。しかし、エッセンシャルワーカーがいなくなって一番困るのは、病気になったときの「私たち自身」です。
これから社会に出る高校生のみなさんには、表面的なバズりや一つの数字に振り回されず、「なぜそういう仕組みになっているのか?」「どうすれば少しでも良くなるのか?」という一歩引いた視点を持ってもらえたらと思います。医療現場の未来は、私たち全員の未来そのものなのですから。
参考資料(URL一覧)
本記事を作成するにあたり、以下の公的データおよび資料を参照・引用しました。
- 厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
- e-Stat 政府統計の総合窓口(賃金関連) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&tclass=000001215600
- 日本看護協会 2024年度「看護職員の賃金に関する実態調査」結果 https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/kangochingin_report_2024.pdf
- 厚生労働省 看護師国家試験の合格状況の推移 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/05/s0512-2a10.html
- 厚生労働省 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/001613378.pdf
- 厚生労働省 ベースアップ評価料等について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 関西広域連合 大阪・関西万博 関西パビリオン アテンダント募集 https://www.kouiki-kansai.jp/hodo/9761.html
- 毎日新聞 25年大阪・関西万博:「万博特需」応募者殺到 破格待遇 https://mainichi.jp/articles/20240526/ddm/041/040/109000c
- 看護roo! 【2025年版】看護師の時給はいくら?平均年収の時給換算 https://www.kango-roo.com/work/307/
- レバウェル保育士 パートの保育士の平均時給は? https://hoiku.levwell.jp/article/248/
- エミリー求人 【都道府県別】キャバクラの平均時給 https://emily-job.jp/column/money/1055/

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